「按摩」といえば,視覚障害者の代名詞のようになっていた時代があり,「按摩」ということばに対する語感があまり良くない人もおられるかも知れませんが,「按摩」は「抑按調摩(よくあんちょうま)」という東洋医学用語を略した学術用語です。
また,ここに紹介します「按摩笛」は,現在のように電話などの連絡方法がなかった時代には営業のための有力な手段だったのです。
以下に,群馬県立盲学校の教諭で盲教育資の研究家としても知られる香取俊光先生よりいただいた資料を基に説明してみます。
按摩笛は江戸の中期頃から使われたと言います。音階が使える男笛(おぶえ)と,竹を二つ並べて共鳴させる女笛(めぶえ)がありました。現在も時代劇や演劇の効果音用に販売されています。
大岡紫山氏の製作したものは以下の(1)と(2)の二つです。竹の中の細工も木製です。
(1)男笛…一本の竹,長さ,15cm,太さ1.1cm。表面は,窓(切り欠き)の穴と,三つの穴が空いています。三つふさぐと西洋音階の“レ”,上と真ん中をふさぐと“ミ”,上だけふさぐと“ソ”,全部あけると“シ”より少し高い音が出ます。
笛の解説書にはチャルメラも吹けるので工夫してくださいとありました。
(2)女笛…2本とも同じ長さ13.5cm,太さ1.1と1.2cm。表面に窓の穴しか開いていないものです。太さが違い振動数の少し異なる2管の竹の笛2本が対になって作られています。
(3)女笛…長さ15.4と15.8cmの長さの違う物,太さ1.1CM。表面に窓の穴しか開いていない。2本が対になっています。
女笛は,2本を同時に吹くことにより,独特の音色になります。こちらの方が時代劇によく使われていますので「聞いたことがある!」と思われるのではないでしょうか。吹き方は,息をきらずに,初めは弱く,次に強く,そしてまた弱くと吹きます。強く吹くと一般に「せめ」と呼ばれる1オクターブ上の音が出,弱めると「フクラ」と呼ばれる1オクターブ下の基音にもどります。
視覚障害者は,右手に白杖を持ち歩いて笛を吹かねばならないので,按摩笛は紐でくくり,首からかけるなどして吹いていたと考えられます。そのために,上のような簡単な笛が作られたのだと思います。
按摩笛の男女がある理由について,女笛の解説書に男は男笛,女は女笛を吹いていたのだとあります。
患者はその日の好みで強く揉んでもらいたい時は男笛を待ち,弱く揉んで欲しいときは女笛を待っていたとあります。
また,男女によって笛を使い分けていたのが女笛の方が独特なのでいつの間にか時代劇に混乱して利用されてきたとあります。
筆者(香取俊光)は,江戸期における女子の按摩については見たことがないので,どう理解して良いのか考慮中です。
筆者(香取俊光)の知っている江戸期の盲人の男性は座頭(ざとう)と言われ,琵琶を弾いて平家物語を語ったり,鍼灸・按摩を職業とし,女性は瞽女(ごぜ)と言われ三味線や胡弓を弾き唄うなどをした旅芸能者でした。この男女の盲人と按摩笛の男女とは結びつかないと考えています。尺八では,息をかけて音を作り出す唄口(うたぐち)の形状が都山流(とざんりゅう)と琴古流(きんこりゅう)では違うそうです。按摩笛も流派によって違ったのかと考えていますが,解説の通りなのかもしれません。
また,30年前に年配の按摩マッサージ師がプラスチック製の按摩笛を持っていて,見せてくれた思い出があります。
「按摩笛は今でも売っているよ」との情報で東京の浅草,仲見世通りの中ほど,浅草寺に向かって左手にある小山商店で購入しました。1度目は定価3.800円でしたが,平成17年の夏に再度購入した時は4.700円に上がっていました。
購入する際は,お店の方に男笛・女笛どちらが良いか聞いてみてはいかがでしょうか。
また,桜雲会編『あんま笛と流しあんま(解説書)(CD付)』(桜雲会)も出版されています。
按摩笛は以上の場所以外でも販売していますので,インターネットが得意な方は探してみてはいかがでしょうか。
コイズミでは,女笛だけですが廉価に販売しています。入荷しているときと品切れの時があります。