傘寿をむかえて    

鹿児島市視覚障害者協会

田淵 静子

 光陰矢のごとしと申しますが,思い返せばあっという間の歳月でした。子供の頃戦争を体験し,また戦後は,食糧難で苦労したこともございました。今は物も豊富で,皆様に見守られながら,幸せに暮らしております。60歳を少しすぎたころから,完全失明いたしました。私だけが,なぜこんなに目が悪くなったのかと落ち込んだこともあります。

 そんな時,「市民のひろば」で,視覚障害者向けのお料理教室が「ゆうあい館」であることを知り,行ってみることにしました。そこで沢山の視覚障害者の人達とお会いしました。そして,その方々の明るく楽しく生きておられる姿に,「私もくよくよしていられない,がんばらなきゃ!」と勇気をいただく事が出来ました。

 「ゆうあい館」には,10年近く通わせていただきまして,パソコンをはじめ,お料理,点字を教えていただきました。

 点字は,書くことは出来るようになりましたが,読むのはなかなか難しいです。最近,やっと幼稚園児並みのスピードになってきたかなというところですが,タックペーパーでのメモ書きなどに,重宝しています。

 「ゆうあい館」のお友達から,「むぎの芽」 に陶芸教室があることを教えてもらいました。小さなころ,粘土遊びをしていたことを思い出して,「私にも出来るかもしれない。楽しそう!」と習うことにしました。「陶芸」これが,私にとって大きな出会いに,なりました。茶碗や皿,大小の花瓶など,諸々,楽しく作っていましたが,ある時,干支の置物を作ってみようと思い立ち,その年の干支,酉を作りました。この干支の置物を,友人達にあげたところ,可愛い!とことのほか喜ばれ,次の年の戌から,亥,子,丑,寅,卯,辰,巳,午,羊,と11年間,毎年その年の干支を作り続けています。手探りでの,干支作りはなかなか大変で,決まった形が出来るまで,いくつも試作しています。目の見えない私が作る干支は,格好の悪いものもあると思いますが,「毎年あなたの作った可愛い干支を飾るのを,楽しみにしているのよ」という声を聞くと,嬉しくなり,「そうだ,私の心が届けばいいんだ」と,せっせと作り,ほしいと言って下さる方に差しあげています。こうした励ましの声が,干支を11年も作り続けてこれた原動力になっているのではないかと,感謝しています。いよいよ,来年の猿で,12干支,完成です。ただ,猿は顔の特徴が,いままでの干支の中でも特にとらえにくく,見えない私にできるだろうかと,少し不安もあります。しかし,せっかく11干支まで,きたのであと一つ,猿まで頑張ろう!と思っているところです。

 一昨年,オープンした,鹿児島市の地域活動支援センターの「きずな館」にも通っています。カラオケ,ハーモニカ,料理,コーラスなど,色々な講座,かご作りなどの軽作業,1日レクレーション,など仲間との交流ができ,スタッフの方々も親切で,本当に楽しくすごさせてもらっています。また,小規模作業所(パーム)では,野菜詰めの作業もしています。

 最後に,こんな良い言葉を聞きましたので,紹介させていただきます。

 ☆「年を重ねたら,きょういく,きょうよう,が大切!」?

 その意味はというと,「きょういく」 とは,教える教育,ではなく,「今日,行くところがある」こと!「きょうよう」 とは,知識がある教養,ではなく,「今日,用事がある」こと!

 私は,この言葉を,実践するよう努力しています。そして,まだまだ元気なつもりですので,これからも前向きに,楽しく,サポートしてくださる皆様に,感謝して,お付き合いさせていただきたいと思っております。有難うございました。

鹿児島市視覚障害者協会会報 平成26年度第2号より転載させていただきました。


目次へ戻る
トップページへ戻る